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奈良地方裁判所 昭和33年(ワ)172号 判決 1958年10月29日

奈良市南城戸町二〇番地

原告

辰己匠

被告

右代表者法務大臣

愛知揆一

右指定代理人検事

平田浩

被告

大和郡山市

代表者市長 水田孝夫

右当事者間の昭和三三年(ワ)第一七二号配当異議事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告が求める判決及びその請求の原因として陳述した事実は別紙請求の趣旨及び原因記載のとおりである。

被告国指定代理人は主文同旨の判決を求め答弁として、「原告主張の事実のうち訴外杉田栄治が本件競売物件のほかに財産を有することは知らず、その余は全部これを認めるけれども、その異議の理由として主張するところは全部失当であるから原告の本訴請求は棄却さるべきである。」と陳述した。

被告大和郡山市は公示送達の方法によらない適式の呼出を受けたのに本件口頭弁論期日に出頭せず且つ答弁書その他の準備書面をも提出しなかつた。

理由

原告が訴外杉本栄治からその所有の不動産につき設定を受けた抵当権の実行のため昭和三一年一月二六日奈良地方裁判所に対し右不動産の競売申立を為し事件は同年(ケ)第六号不動産競売事件として同庁に繋属し訴外沢田勝治郎が右不動産を代金五万円で競落しその代金の支払を完了したこと及び昭和三三年八月二八日午后一時に開かれた右事件の配当期日において原告主張のとおりその競売手続費用を除き全部奈良税務署及び大和郡山市の各交付要求した前記杉本栄治の滞納税金に配当し従つて原告の有する債権には全然配当しない旨の内容を有する配当表が示されたことは原告及び被告国の間においては争なく被告大和郡山市の関係においては同被告がこれを自白したものとみなす。

そこで以下原告の主張する本件配当表に対する異議の理由について判断する。原告はその異議の理由の第一として、「前記杉本栄治は本件競売物件以外に財産を有するから被告等はその財産に対し滞納処分を執行すべきであつて本件競売代金に対し交付要求をするのは原告に対し酷である。」といい、その理由の第二として「被告国の交付要求にかかる所得税は昭和二三年度以来のものであるが、同被告においてかかる長期間その所得税の滞納を放置しながら原告の申立による本件競売を機としてこれに交付要求をするのは私権保護の立場上容認せられないものである。」と主張する。そうしてそのうち右第二の、被告国の交付要求にかかる所得税が昭和二三年度以来のものであることは同被告の認めるところであるけれども、この事実及び前記第一の、杉本栄治が本件競売物件以外に財産を有することは、いずれも被告等の本件交付要求を何等違法ならしめるものでないからこれらの交付要求にかかる税金に対し裁判所が原告の債権に優先して配当したのは毫も違法でなく、従つて原告の主張する本件異議の理由は、前記杉本栄一が本件競売物件以外に財産を有するかどうかを審究する迄もなく、いずれも全部失当である。

以上説明のとおり原告が本件配当表に対する異議の理由として主張するところはすべて失当であるから原告の本訴請求は全部理由なきものとしてこれを棄却すべく、よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条(被告大和郡山市の関係では更に同法第九五条)を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 竹内貞次)

(別紙)

請求の趣旨及び原因

請求の趣旨

奈良地方裁判所昭和三十一年(ケ)第六号不動産競売事件について同裁判所の作成した配当表中奈良税務署及び大和郡山市に対する配当部分を取消し更に原告の債権につき第一順位の優先配当に変更する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決を求めます。

請求の原因

一、原告は訴外川畑勝治に対して金五万円也を貸渡し訴外杉本栄治はその所有に係る士地を担保提供し第一順位の抵当権が設定せられた。

二、然るところ右訴外債務者が期限に弁済せざるため原告は昭和三十一年一月二十六日奈良地方裁判所に抵当権実行のため競売申立をし訴外沢田勝治郎がこれを金五万円にて競落しその競落代金は完納せられた。

三、仍て昭和三十三年八月二十八日午後一時奈良地方裁判所法廷において配当期日が開かれたところその配当表において配当を受ける順位は

一、競売費用 七千百八十七円 原告

二、所得税 二万三千五百五円 奈良税務署

三、県市民税 一万八千六百八円 大和郡山市

四、原告の債権 無配当

となつている。

四、右は訴外杉本栄治の国税及び市県税滞納のため被告等より交付の要求をなしたものであるが被告等が特にこの競売代金に対し交付要求をなさずともむしろ本競落物件以外にて十分にその満足を得られる財産が存在しているのでそれに対して滞納処分をなすべきである原告がその債権の弁済を受ける唯一の競落代金に対し交付要求をし折角権利実行をした原告には毫厘の配当(手続費用は別とする)もないのは酷である。

五、まして被告国(奈良税務署)の要求は昭和二十三年度以来のものであつて斯る長年月に亘る期間内に適当なる措置をなさずに放置し原告が競売申立をした結果その配当金より優先弁済を受けるとのことは私権保護の立場よりして容認されないものである。

それで本件配当異議を主張する。

以上

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